大学生の退屈しのぎ

好きなものをひたすらに貫いていきたい

シューゲイザーにハマるきっかけになった私的名盤10選

シューゲイザーとは

音楽的特徴 フィードバック・ノイズやエフェクターなどを複雑に用いた深いディストーションをかけたギターサウンド、ミニマルなリフの繰り返し、ポップで甘いメロディーを際立たせた浮遊感のあるサウンド、囁くように歌い上げるボーカルなどがシューゲイザーの一般的特徴として挙げられる。https://ja.wikipedia.org/wiki/シューゲイザー

 

今回はハマったきっかけになった聴きやすいものを紹介するので、好きな人は多分どれも知ってるものが多いかと思う。

 

目次

 

1.My Bloody ValentineLoveless

シューゲイザーと言えばこれ。シューゲイザーの神様的バンド。

掃除機みたいなギターのOnly Shallowは何年経っても革新的でかっこいい。生で聴いた時も鳥肌ものだった。

youtu.be

僕が一番最初にハマったのは「When You Sleep」という曲。こっちはうるさいけどとても優しい曲。

 

2.Ride「Nowhere」

 

こちらも定番の一枚。きらきらした海辺のようなギターサウンドが特徴のシューゲイザー

 

僕のイチ押しの曲は「In a Different Place」

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歌詞もすごく詩的で綺麗なので(とは言え僕が勝手に和訳したものだけど)、載せておく。

 

彷徨う泡はが降るのを待っている

いつも急いで歩みを緩めない人々を笑いながら

僕たちは眠っているとき、笑っている

僕たちは目覚めているとき、笑っている

たとえが降って、空が冷たくなったって僕は大丈夫

雷鳴が轟き、稲妻が走る、でも僕たちは別々の場所にいる

時間の外側を、空間の外側を彷徨い続ける

今や誰も僕たちに触れることはできない

僕たちは別々の場所にいる

 

別々になってしまった恋人のことなのか、「僕たちは別々の場所にいる」ということが何度も強調される。

「死」さえ感じさせる世界観と、彷徨う泡のようなゆっくりなリズムと突然爆発する感情のような轟音ギター。。どれをとっても最高に気持ちいい。

 

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3.Slowdive「Souvlaki」

 

Slowdiveは本当に全部好きで迷ったのだけど、やっぱり一番完成度が高い2ndを紹介したい。

アルバムを通して是非聞いてほしい。正直キャッチーとは言えないかもしれないけど、芸術的なくらい綺麗な音楽だと思う。

 

僕がこのアルバムの中でも好きな曲はAlison「40days」「Here She Comes」

  

youtu.be

徹底して幻想的な轟音サウンドを完璧なまでに追求したという意味ではかなり純度の高いシューゲイザーだ。

 

そして2枚目のシングル「Morningrise」も最高なので是非、優しい朝の日の出を見ながら聴いてほしい。

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4.The Pains of Being Pure at Heart「The Pains of Being Pure at Heart」

 

ペインズは全体的にハズレがないんだけど、それでもやっぱりこの1stは最高だ。

初めて聴いたとき、きらきらしたギターとノイズギターが優しく絡み合う「Contender」を聴いて一目惚れしたみたいに好きになり、そのまま怒涛の「Come Saturday」キラーチューンの「Young Adult Friction」の流れに圧倒されたのを今でも覚えている。

Contender

Contender

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Everything with You

Everything with You

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5.The Jesus and Mary Chain「Psychocandy」

 

シューゲイザーと言っていいのか迷いどころだけど、荒々しいノイズと耽美的なメロディーの組み合わせを発明したという意味ではやっぱりシューゲイザーというジャンルの開拓者のような気がする。

ニューヨークパンク×ジューゲイズというなんとも最高なサウンドをやったバンド。80年代の大好きなバンドの一つ。

 

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「キリストとマリアの絆」というバンド名もバチバチに決まっていてかっこいい。

 

本当にサイコキャンディというタイトル通り、中毒性があるアルバム。

 

とりあえず一曲目の「Just Like Honeyを聴いてほしい。ちなみにこの曲はソフィア・コポラ監督のロスト・イン・トランスレーションのクライマックスとなるシーンで起用され再ヒットした曲でもある。

youtu.be

 

そしてこっちが荒々しいシューゲイザーの歴史の幕開けを感じさせる曲「Never Understand」

youtu.be

 

6.Nothing「Tired of Tomorrow」

 

USフィラデルフィア出身、シューゲイザー/ドリームポップバンドの2016年発売のセカンドアルバム。

90年代のシューゲイザーを純に受け継いだ繊細なサウンドが特徴的。だけどRadioheadっぽさもかなりある。

 

ノスタルジックな感情を爆発させたような一曲目「Fever Queenをまず聴いてほしい。

youtu.be

 

個人的に好きな曲はあと「A.C.D」とその次に入っている「Nineteen Ninety Heaven」

youtu.be

 

特に「Nineteen Ninety Heaven」は優しくて浮遊感のあるサウンドはもちろん、絶望的な詞も良い(以下、勝手に和訳したもの)

 

youtu.be

 

僕は夢の世界に生きている

人生は悪夢だ

だから僕はもうずっと目覚めたくはない

僕は夢の世界に生きている

人生は悪夢だ

だから僕は夢の世界にどれだけ長くいようと平気なんだ

 

 

 

7.The Radio Dept.「Clinging to a Scheme

 

スウェーデン出身のシューゲイザー・ドリームポップバンド。

レディオデプトといえば多分デビューアルバム「Lesser Matters」が一番評価の高いアルバムだと思うんだけど、個人的に好きなのは三枚目のこのアルバム。

 

陰鬱な現実を歌った「Domestic Scene」からチープな電子音とノイズを心地よく組み合わせた「Heaven's on Fire」の流れはとても秀逸。

Domestic Scene

Domestic Scene

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Heaven’s On Fire

Heaven’s On Fire

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ちなみに「Heaven's on Fire」の出だしはソニック・ユースのサーストン・ムーアの言葉が使われているらしい。

 

8.Chapterhouse「Whirlpool

 

マイブラやRideやSlowdiveとともに90年代のシューゲイザーを作り上げたと言っても過言ではない。最初こそハマらなかったけど、今となってはこのアルバムにこそシューゲイザーの真骨頂なるものが詰まっているような気さえする。

 

代表曲は2曲目に収録されてる「Pearl」シューゲイザーの必聴ナンバーに必ず含まれる名高い一曲。ゲストにSlowdiveRachel Goswellが参加していることでも有名。

Pearl

Pearl

  • Chapterhouse
  • ロック
  • ¥200
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他にもRideのような疾走感の詰まった「Breather」、前衛音楽のようなキーボードサウンドが特徴的な「Autosleeper」など聴いている人を飽きさせないアルバムになっている。

 

Breather

Breather

  • Chapterhouse
  • ロック
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9.きのこ帝国「渦になる」

 

今のきのこ帝国だけを知っている人からすると、きのこ帝国にシューゲイザーのイメージはないかもしれないが、初期のサウンドはかなり純度の高いシューゲイザーだ。それも陰鬱さと輝きの入り混じったようなサウンドが特徴的。

 

捨て曲はないアルバムだけど、個人的に好きなのは「退屈しのぎ」。ブログ名もここから取ってるほど好き。

どうしようもない虚無とそんな中でも消えない憎しみの感情、そして叫び声みたいな轟音ギターというたまらない組み合わせ。

退屈しのぎ

退屈しのぎ

  • きのこ帝国
  • ロック
  • ¥200
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僕は一番退屈しのぎが好きだけど、「夜が明けたら」もこのアルバムの人気曲。本当に弱りきった人間には大切な曲になるかと思う。

 

夜が明けたら

夜が明けたら

  • きのこ帝国
  • ロック
  • ¥200
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10.Swervedriver「Raise」

 

Swervedriverの記念すべき1stアルバム。

シューゲイザーの名盤ランキングを検索すればこのアルバムもよく名を連ねるけど、シューゲイザーというよりはグランジオルタナっぽい感じ。Dinosaur Jr.とかと近いサウンド

 

代表曲は3曲目の「Son of Mustang Ford」なんだけど、個人的に好きなのは2曲目のPile-Up」だ。シューゲイザーの轟音で優しいノイズというよりは疾走感全開の爆音という言葉の方が似合いそう。

 

Pile Up

Pile Up

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Son of Mustang Ford

Son of Mustang Ford

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みんなが前に進む季節。絶望的な春に聴きたくなる日本語詞の曲10選

春という季節が苦手な人って絶対一定数いると思う。どうしてなのかはわからないけど、僕は小学生の時から冬が好きで春が嫌いだった。冬と違ってみんなが寂しそうにしていないからかもしれない。どうしようもない虚無感とやるせなさに襲われる。

 

今回はそんな時に思わず聴きたくなるようなちょっとダウナーな曲を備忘録も兼ねて10曲まとめました。日本語詞の曲限定です。

 

目次

 

 

1.君島大空「遠視のコントラルト」


君島大空 MV「遠視のコントラルト」

 

サイケデリックだけどポップでロックの要素もあるこの曲は、なんとなくソフトなTHE NOVEMBERSっぽいかもしれない。

幻想的なサウンドに抽象的で絶望感溢れる歌詞。初めて聴いた時、まさにこんな曲を聴きたかったんだ。。と思った。

 

「容易く色は変わって 遠視のレンズ越しに消えた」

「優しく君は笑って 遠視のレンズ越しに消えた」

 

君島大空自身、インタビューで「ズドーンと落ちた時にその時に気持ちを化石にしたかった」というようなことを言っていたので、特に強い虚無感とかを感じている人にピンとくる曲なんじゃないかと思う。

 

 

2.ミツメ「クラゲ」

クラゲ

クラゲ

  • ミツメ
  • ロック
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スピッツを彷彿とさせる言葉選びとメロディーの綺麗さ。ミツメの中でも大好きな曲。

平たく言えば虚無感を感じた時に起こる、好きな人に対する強い衝動の曲。

やるせない現実の中ですがるように思い出す「君」のこと、そんな感情が綺麗で優しく重たくない曲調の中に収まっているのがすごくミツメらしくていい。

 

3.ヤマジカズヒデ「天使」 

天使

天使

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dipというバンドのフロントマン、ヤマジカズヒデのソロ曲。

dipの曲はサイケデリックなものが多いけど、ソロ作品はアコースティックギターの優しいサウンドが特徴的なものが多い。

「天使」もアコースティックの曲。「遠い夜のかごめの君 みずいろのイリュージョン」とか、「黄昏の天使 翼が欲しい」とか歌詞が詩みたいに綺麗なのもいい

 

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4.毛皮のマリーズ「チャーチにて」

 

「全ての人が まぶしくて 殺したい」

毛皮のマリーズと言えばパンクのイメージが強いかもしれないけど、この曲はもうとにかく暗い。あともう少しのきっかけで死ぬって感じです。

歌詞の中でもこの曲は「遺言のような歌だ」と言ってますが、本当に最後まで救いのないテンションで終わります。

どうしようもないけど、個人的にはここまでくるとかえって元気が出る。この曲がこんなにも「死」に近いからこそ生き返れるような。

 

5.藍坊主「0」

ハナミドリ

ハナミドリ

  • 藍坊主
  • ロック
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藍坊主のあんまり目立ってないけど好きな曲。

1、3、7、9を抱え、0に語る

「あなたが好きよ。」

0は話す、

「君は花の匂いさえも知らない」

歌詞はこんな感じで数字が出てきて、それがなんなのかは最後までよくわからないまま終わるので自分で好きなように想像して良いんだと思う。

ただ0は空白として出てくるので個人的には「心に穴が空いた人」なんじゃないかと思う。何かを失って傷ついている人とその人の心に触れようとする人との対話みたいな曲なんじゃないかと。

どうしてこの曲があんまり知られていないのか、本当によくわからない。。

 

6.羊文学「踊らない」

踊らない

踊らない

  • 羊文学
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

「きみはかわいい とてもかわいい 僕ではとても愛せない」という言葉が印象的なこの曲。

愛せなくなってしまった誰かと決別しようとする曲なのかななんて思いながらいつも聴いているんだけど、このどうしようもない息苦しさが癖になる。

力強いけどクリーンなギターの音が好きなのもあるけど、人間関係の微妙なすれ違いを表現した世界観もすごく好き。

 

7.スピッツ「プール」

プール

プール

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初期のスピッツの珠玉の名曲。

孤りを忘れた世界に 白い花 降りやまず

でこぼこ野原を静かに 日は照らす

 

スピッツは本当に詞もメロディーも最高峰だなあと思うんだけど、この曲は本当にその中でも別格なんじゃないかなあという気がする。

素朴でシンプルなのにどう考えても天才的で唯一無二の楽曲というか。

曲としては明るいし、別れとか悲しみよりも「出会えた喜び」みたいなものを歌っているとは思うんだけど、僕が個人的に悲しい気持ちの時に聴きたくなる曲なので入れました。すごく良い曲です。

 

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8.おとぎ話「さよなら、またね。」

さよなら、またね。

さよなら、またね。

  • おとぎ話
  • ロック
  • ¥250
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おとぎ話の新しいアルバム「眺め」に収録されている曲。

やっぱりシンプルで直球でも唯一無二になれるってすごい。

 

君に触れたいだけ

未来に消えたいだけ

さよなら、またね。

 

別れの歌だけど、どこか明るくてそこがまたより一層悲しい。

 

9.XINLISUPREME「始発電車」

 

マイブラジザメリMerzbow or Suicide」と評されているXINLISUPREMEのこの曲。

XINLISUPREMEは、実験的で前衛的なサウンドが多いけど、この曲はかなりゆったりしていてとっつきやすいと思うし、歌を聴かせる感じの曲になっていると思う。

I Am Not Shinzo Abeって面白いアルバム名だなーと思って聴き始めたのがきっかけだった(このアルバムにはThe First Trainとして収録されている)けど、一時期はこの曲だけずっと聴くってぐらいハマってた。

 

「例えば僕が同性愛だったら結婚もできない」

「例えば僕が在日だったら選挙では投票できない」

「例えば僕が徴兵されたなら 戦争であなたと殺し合う」

 

サイトに歌詞が載っていなかったので聞き取りですが、歌詞の世界観はこんな感じです。こんなことを考えて始発電車を待っている朝の歌。

 

10.Cornelius「未来の人へ」

 


Cornelius 『未来の人へ』Dear Future Person

 

作曲は小山田圭吾だけど、坂本慎太郎が詞を書いたこの曲。

キラキラしたギターとキーボードが不思議な世界観を作り上げている。インタビューに書いてあったが、全体的にキラキラしたアルペジオはスミスを意識しているそう。

 

歌詞の世界観は音楽を通じてもう死んだ人の魂みたいなものが次の世代に伝わっていくみたいな感じなのかな。

MVにもFantasmaのレコードが写っているので、そんな音楽による時間を超えた繋がりみたいなものだと思う。

暗い曲じゃないんだけど、音楽を聴くことの神秘みたいなものを感じられて、部屋に閉じこもって音楽を聴いてるばかりの僕みたいな人間には少し希望ある曲です。

 

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ちなみに秋に聴きたい曲はこちらの記事にまとめているので、よかったらこちらもよろしくお願いします!

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大学生のうちに読んでよかった海外の文学作品の金字塔7選

今回は以前書いた日本の文学作品のオススメ記事の海外版です。

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日本以外の国の作品ということであとは時代も何も問わず、とにかく面白くて「自分の人生が変わったような感覚が強く残ったもの」を中心に選びました。

 

目次

 

 

1.赤と黒/スタンダール

 

 

フランス出身の小説家スタンダールの代表作。

人妻に恋をしてしまう野心家の青年を描いた話。

 

(あらすじ)

主人公ジュリヤン・ソレルは製材小屋の家に生まれた華奢な青年で、兄や父から虐待されていた。

だが彼は美貌と明晰な頭脳を持っており、ある日町長のレーナル氏にその能力を買われ家庭教師として雇われることになる。

ナポレオンに憧れブルジョワ階級に激しい軽蔑を抱いているにもかかわらず、レーナル夫人に恋をし誘惑してしまう。

 

フランス文学お決まりの若い青年が人妻に恋する小説ですが、これはそんなに硬くない文章でスッと読めます。ドロドロした恋愛とジュリヤン・ソレルの異常な野心や金持ちに対する冷たい視線...。どれも、時代を問わずある普遍的な感情なので入って来やすい。

 

今と違って軍人が偉い時代なので華奢であることに対するコンプレックス、家柄が重要視される時代においての上流階級の人たちの中で自分だけが貧しい生まれであることへのコンプレックスなど...主人公の劣等感と自惚れの波のような、陰鬱な青年独特の繊細な表現も面白い。

 

タイトルの「赤と黒」は様々な解釈があるけど一般的に当時の支配階級を象徴的に表しているとされ軍服のと聖職者の着衣のなのではないかと言われている。

 

2.星の王子さま/サン・テグジュペリ

あまりにも有名な本で、読んだことのない人には文学というよりは易しい絵本のようなイメージもあるかもしれないけど、読めば絶対に宝物にしたくなるよな本であることは間違いないと思う。

 

この話では、「人間たちが忘れてしまった真理」として「いちばんたいせつなことは、目に見えない」という言葉が登場する。

 

大事なのは目に見えることではなく、そこにない自分だけの価値みたいなものをいかにして見つけられるかが人生を豊かにすることに繋がるんじゃないかとこの話では言っていて、その例の一つとしてバラの例が挙げられる。

王子さまは自分の星で大事にしていたバラを置いて旅に出て地球にたどり着くけど、そこでバラの庭園を発見する。

姿・形、何もかもが自分が大事にしていたバラとそっくりでショックを受けるけど、でも王子さまは気付く、「このバラは僕が大事にしていたバラとは全然似ていない」と。

自分がそのバラを世話し、費やした時間こそそのバラをかけがえのないものにしたのであり、例え同じ見た目のバラが違う星にあったって、それは全くの別物なんだと。(ちょっとBUMP OF CHICKENの花の名っぽい)

 

「想像力の大切さ」みたいなものをわかりやすい寓話にまとめた話で、忙しない世の中に揉まれて冷たくなってしまった「大人たち」を立ち止まらせて温かい気持ちを蘇らせてくれる本

 

3.椿姫/デュマ・フィス

 

19世紀中頃のパリの社交界恋愛を描いた小説。

 

(あらすじ)

マルグリットは美しい高級娼婦で、金持ちの貴族たちを相手に大胆に遊んで暮らしていた。

だが、そんな贅沢三昧の生活を送るもどこか満たされないマルグリット。そんな時、自分を本気で心配してくれた青年アルマンに出会い、初めて誠実な愛情と幸福を知る。

マルグリットはかつての享楽的な生活を捨ててでもアルマンとの生活を選び、パリの郊外で二人で暮らすようになる。

だが、家柄を重んじるこの時代に彼らの恋愛が歓迎されるはずもなく、幸福な生活はそう長くは続かなかった。

 

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娼婦という身の上が二人を苦しめるんですが、読んでみると描かれている恋愛自体は現代のそれとなんら変わらない、本当にどうしようもない恋愛です。

身分違いの恋愛について考えさせられる場面として娼婦であるマルグリットが、本当にこんなパリ郊外で自分と二人で細々と暮らす生活に満足しているのか不安になるアルマンのこんなセリフがある。

「だってね、マルグリット、きみがいくらぼくに愛情注いでくれるからといっても、そのために宝石ひとつだって手放して欲しくないんだよ。また、いつか気まずいことがあったり、うんざりすることがあったりしたときに、もし別の男と暮らしていたら、こんなこともなかったのに、といったふうに思って欲しくないんだ。」

「それはつまり、あんたがあたしを愛してないってことよ」(光文社 古典新訳文庫 p.310,311)

 

マルグリットは

「本当に私が好きなら、私の好きなようにあなたを愛させてよ!」

と言うんだけど、男の立場からしたらだからって大事にしてる宝石や馬を売らせるような真似絶対にできないし、そんな屈辱に耐えられるはずもない。

 

こんな大恋愛を一生に一度はしてみたいなあなんて思うけど、やっぱり、人を本気で愛してしまうことって悲劇的だなあとつくづく思わされる。

 

4.若きウェルテルの悩み/ゲーテ(1774年)

 

ドイツの作家、ゲーテの絶望的な恋愛体験をテーマにした代表作「若きウェルテルの悩み」

ウェルテルという名前は今でも恋する純粋な青年の代名詞となっているくらい有名な作品。

キリスト教の教えに背いて自殺する主人公の姿は当時、若者たちの共感を呼んでしまい、自殺する若者が急増したと言う。

 

(あらすじ)

そこそこ上流階級の青年ウェルテルはロッテという娘に恋をするが、彼女にはアルベルトという婚約者がいた。

仕官の道を選び、ロッテと離れるも上司や薄っぺらい表面上の付き合いにうんざりし退職する。

ウェルテルは旅に出るが、懐かしさでロッテのいる村に戻ってしまう。しかし状況は全て以前とは変化し、ロッテはもうアルベルトと結婚していた。

アルベルトよりも自分の方がロッテとウマが合っていると確信するウェルテルで、ロッテもそう思っているが、それでもロッテと時間を重ねていくうちに自分の恋が絶対に叶わないことを知り、ウェルテルは自殺する。

 

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ぼくだけがロッテをこんなにも切実に心から愛していて、ロッテ以外のものを何も識らず、理解せず、所有してもいないのに、どうしてぼく以外の人間がロッテを愛しうるか、愛する権利があるか、ぼくには時々これが飲み込めなくなる。(新潮文庫 高橋義孝訳 p.116)

 

婚約者のいる相手に恋をしてしまったウェルテル。この小説の叶わない恋に加えて絶望的なところは、ウェルテルは文学や絵を好む感受性豊かな青年だったのに対して、恋敵のアルベルトはおそらくそういう人間の弱さみたいなものにあまり関心がないようなタイプだったこと。

ウェルテルとアルベルトで自殺について語る場面があるがアルベルトは「いったい、どういうつもりで人間はまあ自殺などという愚を犯すのかね」と言っている。

ウェルテルはアルベルトのこともいいやつだと思っていたようだが、思うに自分とは正反対の強く「正しい」男だったんじゃないかと思う。だからそんな相手に自分の愛する人間を奪われている状況というのは、自分そのものが否定されたも同然の気持ちだったんじゃないだろうか。

 

5.異邦人/カミュ(1942)

 

あらすじ

母の死の翌日海水浴に行き、女と関係を結び、映画をみて笑いころげ、友人の出入りに関係して人を殺害し、動機について「太陽のせい」と答える。判決は死刑であったが、自分は幸福であると確信し、処刑の日に大勢の見物人が憎悪の叫びをあげて迎えてくれることだけを望む。通常の論理的一貫性が失われている男ムルソーを主人公に、不条理の認識を極度に追求したカミュの代表作。新潮文庫

 

 

母が死んでも次の日に女と情事に耽り、葬式でも泣かない、挙げ句の果てに人を殺してしまう主人公、ムルソー

僕が思うに、ムルソーは常識というものに縛られなすぎていた。そんな彼の行動を見ていると、歪んだ見方なのは常識の方じゃなんじゃないかと思うほど。

例えば、母が死んだ翌日に女と関係を結ぶことが「不謹慎」だと言われるのなら、じゃあ何日後ならいいのだろう。身内が死んだら、部屋で何日うずくまって泣かなければ不謹慎だと言われるのだろうか、とか。

 

かなり難解で僕も2,3回読み直して解説も読んだのだけど、正直理解はしきれていない。でも、理解できなくても心を掴む何かがこの小説にはあると思う。

 

6.変身/カフカ(1915年刊行)

 

「ある朝、不安な夢から目を覚ますと、グレーゴル・ザムザは、自分がベッドのなかで馬鹿でかい虫に変わっていることに気がついた。」

 

有名な冒頭から始まるチェコ生まれカフカの代表作「変身」。

 

あらすじ

グレーゴルはセールスマンで両親と妹と暮らしているが、ある日虫になってしまう。

グレーゴルは当然仕事をクビになり、家族はグレーゴルとの接し方に困惑する。

 

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この話で面白いところは読んでいくうちにグレーゴルが虫になったのは懲罰ではなく願望なんだとわかってくるところ。

社畜として身を粉にして働いていたが、グレーゴルには「こんな生活うんざりだ」と思っていることが冒頭で明かされるので、何もかもの責任を放棄するという意味で虫になったのだと思う。

ここで言う責任とはもちろん、仕事などの社会的役割もあるが、グレーゴルはそもそも「グレーゴルでいること」に疲れていたのだと思う。だからその姿形まで変わってしまった。

虫になり、他人に対する責任を放棄してしまった主人公の結末はなんとも残酷だが、これが人間関係の真理なのかもなあなんて思わされる。

 

7.初恋/ツルゲーネフ(1860)

 

ロシアの小説家・劇作家のツルゲーネフの「初恋」

 

あらすじ

16歳のウラジーミルは近くに越してきた年上の公爵令嬢ジナイーダに、初めて恋をする。

男を手玉にとりながら生きてる奔放なジナイーダ。彼女は誰の手にも落ちないように見えたが、ある日、ウラジーミルは彼女が誰かに恋に落ちたことを知る。。

 

 

この話で問題になるのはジナイーダが恋をした相手が誰だったのか。

ただ、ネタバレをしない方が絶対に面白いので、主人公とその取り巻きの男たちと同じ目線で誰なんだろう誰なんだろうと思いながら読んで欲しい。

 

初恋の瑞々しさや、人を好きになって世界が変わってしまったように呆然としてしまうあの感じ。。甘くて痛くて悲しい初恋の魅力が詰まった作品。

 

 

 

 

 

大学生のうちに読んでよかった日本のオススメ文学作品の金字塔10選

 

目次

 

1.金閣寺/三島由紀夫

 

 

主人公の溝口は吃音症というハンディキャップを抱えながら青春時代を過ごし、金閣に異様な執着心を抱いていた。

そんな溝口が金閣燃やすに至るまでを独白する物語。

 

臨済宗の有名な公案の1つ「南泉斬猫」(東堂と西堂の僧たちが一匹の猫について言い争っていた。しかし誰も答えを出せず、南泉和尚は猫を殺した。その話を南泉から聞いた趙州が頭の上に靴を乗せた。南泉が「お前がもう少し早くここにいれば猫を殺さずに済んだのに」と言った話)の構造に沿って話が進んでいくのも面白い。

 

この公案自体はかなり難解で、僕みたいな無教養大学生には調べてもあまり理解できないけど、小説「金閣寺」においては行動によって物事に決着をつける(猫を斬った南泉)か、認識によって物事に決着をつける(対になっている靴を頭に乗せ、二元論の止揚=視点を変え、どちらも共存させることを選んだ趙州)のか、程度に捉えておいても全然読める。

 

陰鬱な青年の内面に深く切り込んだ傑作で、高校生の時にこれを読んで、「文学」というものに初めて触れたような気がしたのを今でも覚えている。

 

あと、名文だらけの金閣寺の中でも特に好きな文「私は歴史に於ける暴君の記述が好きだった」というのがあって、ここにはみんなからバカにされている青年の静かに燃える復讐心みたいなものがあるし、劣等感を背負った少年の本質が凝縮されている。この気持ちが分かる人には小説「金閣寺」は一瞬でピンとくるんじゃないかなあと思う。

 

2.春琴抄/谷崎潤一郎

 

 

九つの時に失明したにもかかわらず琴の名手になった春琴。

そんな春琴に幼い頃から奉公人としてつけていた佐助。

春琴は鶯を愛し、音楽の才能に恵まれ、圧倒的な美貌を持っていたが、プライドが高くわがままだった。

しかし、そんな春琴が夜中に顔に熱湯を浴びせられるという事件が起こる。

火傷で爛れた自分の顔を見られることが耐えられない完璧主義の春琴の気持ちを汲み取って、佐助は自分の目に針を刺して失明させる。

愛情とも言い難い、佐助の不気味なまでの忠誠心を描いた作品。

 

谷崎潤一郎の作品はよく倒錯的な愛を描いたとかマゾヒズムだなんて形容されるけど、この小説は比較的共感しやすいのではないかと思う。

ポイントなのは春琴は目が見えないので、佐助が失明しようと確かめようがないのに、それでも本当に自分の目に針を刺して失明させているところ。

ただ、それでもプライドの高い春琴にとって、佐助に自分の醜い顔が見られないで済んだのは確実に嬉しい出来事だったはず。

本当の誠実さとか、それは本当の愛情なのかとか、そんなことを考えさせられる話。

 

3.桜の樹の下には/梶井基次郎

 

 

桜の樹の下には屍体が埋まっている!

これは信じていいことなんだよ。何故って、桜の花があんなにも見事に咲くなんて信じられないことじゃないか。俺はあの美しさが信じられないので、この二三日不安だった。しかしいま、やっとわかるときが来た。桜の樹の下には屍体が埋まっている。これは信じていいことだ。(新潮文庫 檸檬  p.188)

 

もう何も言わないのでこの冒頭を読んでほしい。この冒頭に惹かれた人は絶対読むべきだし、何言ってんだ?って感じなら読まなくていいと思う。

ちなみにこの作品自体は文庫本4ページほどの短編なので、詩集を読むようにスラスラ読めます。

 

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4.雪国/川端康成

 

 

ノーベル文学賞をとってるくらいの人だからもちろん名作だと言い尽くされている作品なのだけど、そんなに硬い作品ではなく、大学生でも全然面白くこの小説は読めると思う。

雪国はあの有名な出だし

「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった」

という出だしから始まるあの小説。

 

ざっくり言うと雪深い温泉町での島村と芸者駒子のいっときの恋愛物語

期限付きの恋愛模様独特の哀愁は映画「ロスト・イン・トランスレーション」に近いものがあるような気もする。

性描写がほぼないということでも知られるこの小説だけど、だからといってこの二人がプラトニックな関係かというと全くそういうわけでもなく、むしろその想像させる余白の部分が妙にエロかったりする。

 

ちなみにこの小説には僕の好きな場面があって、それは島村が雪ごもりの季節にその村で晒してある縮を見て、「雪で他にすることもないから、この仕事には念を入れ、製品には愛着を持ったんだろうなあ」と思っていると、その季節感から「冷たい根」を持った駒子のことを思い出す。そして「けれどもこんな愛着は一枚の縮ほど確かな形を残しもしないだろう」と、感傷にふけるところ。

すぐに跡形も無くなってしまう駒子への思いを、愛情ではなく「愛着」と表現するのがいいし、それをしっかりと形に残る縮と比較しているのも終わりを予感させる哀愁に溢れていていい。

 

5.砂の女/安部公房

 

昆虫採集のため砂丘にやってきた教師の仁木順平は、砂穴の底にある女が一人で住む家に閉じ込められる。目的は、村の労働力を確保するために、男に働かせることだった。どうにかして脱出を試みようとする男、砂穴の底に引き止めて自分の負担を軽くしようとする女、そして穴の上から男の脱出を不気味に妨害する村人たちを描いた物語。

 

この小説は好きすぎて、この本だけで記事を書いたこともあるのだけれど、これは特に大学生にオススメ。

www.neatnobibouroku.info

 

労働の本質、そしてそもそもの生活のシステムの本質に深く切り込んでいて、漠然とした将来への不安を抱えている大学生にはピンとくるものがあるんじゃないかと思う。

とはいえそんな硬い文章でもないし、男の脱出劇を描いたシーンはスリリングで、考察や何やらを抜きにしても読みやすく楽しめる。

 

6.人間失格/太宰治

 

 

「恥の多い生涯を送ってきました」

無邪気な子供を演じ続けた幼少期を描いた第一の手記、中学、そして徐々に酒や煙草を覚えていった高校の葉蔵を描いた第二の手記、高校を退学になり、本格的に破滅へと向かう第三の手記からなる太宰治の自伝的な小説。この作品の完成から一ヶ月後、太宰治は命を絶った。

 

他人を信じることができず、怯え必死に自分を偽ってきたと明かす葉蔵の半生を描いた話。

 

言わずと知れた名作。他人が理解できず、他人が自分と同じ人間であることを幼い頃から理解できず、「お茶目」に見られるため、わざと失敗をしたりすることを幼い頃から繰り返す葉蔵。それを自分で「道化」と呼び、それは「人間に対する最後の求愛だった」と言う。

 

主人公の人間に対する恐怖は最終的に主人公を女や酒、薬に溺れさせ、破滅へと向かわせるが、その根源となる思いは「他人を理解したい」といういたって普遍的な感情であるところがこの小説がこんなにも読まれ、愛されている理由なのではないのかと思う。

 

重いけど、太宰治の文体は綺麗で本当に読みやすい。僕が個人的に好きなのは怒りによって人間が突如本性を剥き出しにする様子を「牛が草原でおっとりした形相で寝ていて、突如、尻尾でピシッと腹の虻を撃ち殺すみたい」だと表現しているところ。

 

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7.海辺のカフカ/村上春樹 

 

村上春樹特有の二つの世界が交互に描かれ徐々に交わっていくという手法をとった長編小説。

 

主人公の「田村カフカ」は15歳の誕生日に「世界で一番タフな15歳の少年になる」と決意し、家出をする。

引き寄せられるように四国にたった一人で行き、その町にある図書館に住むことになる。

 

もう一つの物語は幼い頃に事故によって読み書きの能力を失ったナカタさんを中心に進んでいく。彼は猫と話せるため、猫探しをしながら細々と生活している。

 

彼らの物語はジョニー・ウォーカーという猫殺しの老人の存在によってどんどん交わっていく。

 

主人公田村カフカには「カラスと呼ばれる少年」という自分の分身のような存在がいて、その少年と対話しながら自分の気持ちを探っていくという書き方も面白いし、家出をした15歳の少年が図書館で様々な本に出会ったり、一人で音楽を聴きながらジムに通うシーンなども読んでいて楽しかった。村上春樹の作品の中でも1、2を争うくらい好きな作品。

 

8.何者/朝井リョウ

 

 

直木賞受賞作で就職活動を始めた大学生4人を描いた物語。

それぞれ目指している企業やなりたい職があり、協力しながら就活を進めていくが、そんなことをしているうちに主人公であり語り手の拓人はそんな友人たちをだんだん冷めた目で見始める。それは「就活なんて興味がない」と言っているような人が裏では必死で情報収集したり必死になっていたり。行きたくもない留学やインターンに精を出しているのを見ているから。

また拓人はギンジのことも意識しながら就活を進める。ギンジとはかつて同じ劇団で演劇をやっていた仲間だが、ある日、大学もやめて就活もせずに自分で劇団を立ち上げると言い出した友人で、ブログやツイッターで自分の努力を発信し続けている。そんなギンジのことも拓人は「勘違いしている」と見下している。

 

さて物語はこんな感じなんだけど、SNSをやっている大学生ならおそらくホラーに感じるくらい思い当たる節があるのではないかと思う。そしてもちろん就活の怖さというのは、それが自分の内面まで値踏みされていく場のような気がしてしまうところだ。

 

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何者かになりたくてあがいている大学生。ちょっと前に「意識高い系」なんて言葉が流行ったけど、そんな風に他人を馬鹿にしている人たちに対して「じゃあそんなかっこ悪くあがくことすらできない自分はどうなの?」って問いかけるような話。

登場人物たちのツイートとかも出てくるのだけど、これがまたリアルで恐ろしい。SNSの発達でどこか物事を俯瞰で見ることばかり覚えて、観察者として他人を見下して、肝心の自分と全く向き合えない拓人の姿は正直自分と切り離せなくて痛いほど刺さった。。

 

9.木洩れ日に泳ぐ魚/恩田陸

 

 

明日から別々に生きていくことを決めた男女が語り明かす最後の夜を描いた物語。

男女交互の視点で語られる構成のせいなのか、自分の発言が相手にどう捉えられていたかとか、恋愛観の違いとかの人間ドラマとサスペンス要素が絡み合っていて面白い。

ストーリーがしっかり構成されていて、様々な伏線を経て謎が明かされていく系なので、読み出してしまえば後半は一気に読んでしまいたくなると思う。

 

10.蒲団/田山花袋

 

「蒲団に残るあのひとの匂いが恋しい」

3人目の子供を授かった妻を持つ文学者の時雄が、そこに弟子入りしてきた若い娘芳子に激しい恋心を抱く話。

時雄はもう三十半ばであり、新婚の喜びも消え去って、平凡な毎日にどこか飽き飽きしていた。芳子はそんなところに現れたのである。だが芳子にも秀才な恋人がいることを知り、時雄は苦しみに悶える。

 

自然主義文学の金字塔的作品で、こんなにも恋愛をみっともないくらい赤裸々に語っているのにそれでも文学になるんだからすごい。

恋愛の苦しみをありありと追体験できるのと、なんかこの主人公の振られた後に好きな人がいた蒲団を思いっきり嗅いでしまう情けなさがたまらない作品。 

 

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よければこちらに海外の作品編もあるので合わせてよろしくお願いします!

www.neatnobibouroku.info

 

 

 

思春期のリアルな痛みを描いたオススメ青春映画5選

青春なんて言うと明るいイメージがつきもの。

実際は青春なんて暗くて恥ずかしくて苦しいものなんですが、それでも学生時代特有の青春を疑似体験するような映画が観たくなったりする時もあります。

今回はそんなリアルな青春に寄り添ってくれるような、個人的傑作青春映画を5つ選びました。いわゆる観念的な「青春」の映画ではなく、あくまでリアルに「青春」を描いた映画です。

 

1.リリィ・シュシュのすべて

監督:岩井俊二

出演:市原隼人蒼井優忍成修吾

 

実験的なインターネット小説を原作とした2001年に公開された岩井俊二監督の作品で14歳のリアルな心情を描き出しています。

イジメ援助交際レイプ...逃げ出したくなるような日常の中で、リリィ・シュシュというアーティストの掲示板サイトにのめり込むようになる主人公、雄一を中心に話は進んでいきます。

主人公が崇拝する歌手のリリィ・シュシュ役はSalyuですが、ほとんど姿は見せません。

また、この映画の大きな見所であるSalyuが歌うオリジナルのサウンドトラックが、「これしかない」というものをきちんと持ってきていて、この映画がいかに緻密に作られているかがきっと聴けばわかります。

 

飛べない翼

飛べない翼

  • provided courtesy of iTunes

 

共鳴(空虚な石)

共鳴(空虚な石)

  • provided courtesy of iTunes

 

若かりし日の市原隼人の思春期全開って感じの瑞々しい演技もすごくいいし、蒼井優も可愛いし忍成修吾もクソガキを好演しててとても良かったです。

正直救いのある映画ではないし、「青春って最高!」って思えるような映画だとはお世辞にも言えないんですが、それでも僕の厨二病精神が壮大なカタルシスを感じると言うのもあって好きな作品です。閉塞的で息苦しくなるような映画だけど、綺麗で自然な重さで大げさじゃないのがいい。

 

 

2.ウォールフラワー 


映画『ウォールフラワー』予告編

 

監督:スティーヴン・チョボスキー

出演:ローガン・ラーマンエマ・ワトソンエズラ・ミラー

 

これも最近の映画ですが、青春映画の金字塔と言われている名作です。

「ウォールフラワー」とは「壁の花」であり、転じて人がたくさんいる賑やかな場所で場には入れず、ひっそりと目立たないようにしてる人のことを言うそう。

主人公のチャーリーはまさにそんな「壁の花」でスクールカーストの最下層でひっそりと生きているけど、下級生のために気丈に振る舞い教師のモノマネをする陽気な上級生パトリックを見て「この人なら」と、思い切って話しかけます。

それがきっかけでチャーリーはパトリックとパトリックの妹サムと3人で仲良くなっていくんですが、エマ・ワトソン演じる恋多き女の子サムにチャーリーは恋してしまい...。といった感じです。

3人の楽しそうなシーンも多いんですが、それだけじゃなくて、家庭の問題、過去のトラウマ、恋愛...そんな問題を重すぎず軽すぎず、でも繊細に扱っているのがこの映画が名作と言われている所以な気がする。ローガン・ラーマンの入学したばかりの高校で、友達ができるか不安でみんなに話しかけようか迷っている時のビクビクしている表情とかも良かったなぁ。

そしてサントラが音楽好きにはたまらないチョイス。ニュー・オーダー、スミス、コクトーツインズXTCデヴィッド・ボウイなどなど。。冒頭でスミスのAsleepがかかるシーンもあって最高です。

 

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3.桐島、部活やめるってよ


映画『桐島、部活やめるってよ』予告編

 

監督:吉田大八

出演:神木隆之介橋本愛東出昌大

 

朝井リョウによる人気小説を原作にした映画で、とことん高校生活をリアルに描いた映画です。

タイトルにもある桐島はバレー部のキャプテンでみんなの人気者、スクールカーストのトップにいる生徒で、そんな桐島が部活をやめて学校に突然来なくなることで振り回される周りの生徒たちを描いてます。

見所としては神木隆之介スクールカースト最下層の映画オタクを好演しているのと、物語の展開はこれだけにもかかわらず、最終的には「生きる目的」みたいなものを再考させられる映画になっているところです。本当に自分の人生を生きるとはどんなことなのか...迷ったら学生に限らずぴったりの映画だと思います。

 

4.スウィート17モンスター


映画「スウィート17モンスター」日本版予告

 

監督:ケリー・フレモン・クレイグ

出演:ヘイリー・スタインフェルドウディ・ハレルソン

 

「この世に人は二種類。自信に満ちて世渡り上手な連中と、そいつらの滅亡を願う人たち」と思っている主人公ネイディーン17歳。

イケメンでみんなから人気者の兄を持ったイケてない主人公ネイディーンの生活は、唯一の親友が自分がコンプレックスを抱いている兄と付き合うことでより一層こじれていく。

コメディー要素もあり、笑えるところも多いですが、結構痛いところを突かれる映画です。卑屈で意地っ張りで素直になれない主人公は男女問わず痛いほど共感できるキャラクターなんじゃないかなあと。

キャッチコピーにもあるようにこれは「あの頃のリアルなイタさを描く愛すべき青春こじらせ映画」です。そしてネイディーンという主人公を通して自分と強く向き合える映画になっています。笑えるところがたくさんありながらも、これは名作の言葉が似合う映画だなと思いました。

 

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5.明日、君がいない

 

監督:ムラーリ・K・タルリ

出演:テリーサ・パーマー、ジョエル・マッケンジー

 

ある高校の中で誰かが自殺する。

冒頭ではそれだけが示唆されますが、誰が自殺したのかはわからず「自殺するほどの問題を抱えていたのは誰なのか」を中心となる6人の生徒達のインタビューを交えながら追っていく形で物語は進行していきます。

同性愛や家庭の問題を扱っていて、今回紹介した中では一番シリアスなのかなと思いますが、今作は間違いなく学生の「自殺」の本質を捉えた怪作です。観終わった後にタイトルを見て「ああ、そういうことか」と納得できる作りになっているのも良い。

監督がこの作品を撮影したのが19歳ということもあって、生々しさとこの「学生生活の温度」とでもいうべきもののリアルさは随一かと思います。精神的に余裕があるときに観てもらいたい作品です。

 

 

 

 

 

同化する灰色の日常と砂穴の底の暮らし。安部公房「砂の女」を読んだ感想

ー罰がなければ 、逃げるたのしみもないー

砂の女 安部公房 新潮文庫 4頁)

 

三島由紀夫が絶賛し、二十数カ国語の翻訳が発行されている世界的な文学の1つ安部公房砂の女

 

単刀直入に感想を言うと、これはもう文句なしの名作です。豊富な比喩表現と人物描写の機微の一つ一つ、どれをとっても文学の真骨頂だと思いました。

 

 

目次

 

 

あらすじ

教師の仁木順平は休暇をとって砂丘へ昆虫採集へ出かけると、そこで深い穴の中に建てられている家々を見つける。

 

昆虫採集を初日の楽しんだ夜、村人の老人が男を世話してくれ、よかったら村の者の家に泊まって行かないかと言う。男は承諾し、ついていくと、そこは女が一人で暮らす砂丘の端っこを削るようにしてできていた家だった。底まで数十メートルあり、縄梯子を使わないと降りることができないようになっていた。

 

家は砂が降り注ぎ、ボロボロだったが主の女は快く迎えてくれた。奇妙だったが、男は休暇の土産話の一つになるだろうと考え泊まることにする。

 

女は夜になると砂かきをした。こうしないと砂の崖が崩れて家が潰れてしまうと言う。それは村人たちの決まりになっている仕事のようだった。女が掻き出した砂は上から男たちが道具で引き上げていた。男はその気配を感じながら眠りについた。

 

次の日。起きると縄梯子が外されていた。

 

男は当然憤慨するが、女は黙ったまま。どうやら労働の人手不足から男を監禁することに村ぐるみでしたらしかった。

男はあの手この手を使って脱出を試みる。

 

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男がこの部落に来た本当の目的(以下ネタバレ)

正直眠たくなるような出だしの砂の定義やらハンミョウやらを読んでいくと、男はどうしようもない変わり者の昆虫オタクのように思えるけど、「砂と昆虫にひかれてこんなところまでやって来たのも、結局はそうした義務のわずらわしさと無為から、ほんのいっとき逃れるためにほかならなかった」と彼自身自覚している。

 

詳しくは書かれてないけど、現代の我々同様、職場での他人の楽をいっときも許さないかのような、あのピリピリした空気にもうんざりしていたのだろう。

 

「彼らは、自分をぼろ屑のようだと感じ、孤独な自虐趣味におちいるか、さもなければ、他人の無軌道を告発し続ける、疑い深い有徳の士になりはてる。」

「勝手な行動にあこがれるあまり、勝手な行動を憎まずにはいられないのだ」新潮文庫 87頁)

 

こんな職場の人間の描写も、今の自分たちが働いている場所にも通ずるものがあるし、なんならこんな空気って学校にもあるわけで(ズル休みする人を異常に気にしたり)。こういう一見些細なものが無意識に自分自身を蝕んでいたのにも違いないし、そこから解放されたいと願っても無理はない。

彼は繰り返される味気ない毎日に反発するような思いで休暇を取り、部落に来た。そしてそんな気持ちが、流動的でどこまでも自由な「砂」へ引き寄せられる理由だったのだろう。

 

男を閉じ込める村人

村人が男を監禁したのは村の崩壊を防ぐために労働力を確保したかったからだった。村人たちは直接男に危害を加えるわけではないけど、とんでもなく不気味だ。労働しなくなった男に(拉致されてるんだから当たり前)黙って水の配給をストップしたり、逃げ出した男を追いかけるも、懐中電灯の灯りで砂の深い場所に静かに誘導して動けなくなった男を捕まえたり(それも罠にかけておいて助けるみたいに捕まえるのがまた怖い)、挙げ句の果てには男が女と性交するところを見せてくれたら、外に出してやるなどと言う。このやばさったらない。

細かい部分だけど、男が村人を必死に説得し「こんなやり方ってないんじゃないのか」と掛け合うところでも、村人は人一人の人生を台無しにしているというのに平気で適当に相槌を打って受け流し、男が諦めるのをただじっと待ってる。彼らは強い言葉で脅したり暴力を振るうわけでもない。

 

彼らは不良な砂を売ったり、こうして迷い込んだ人たちを拉致して働かせ部落を守ったり本当に最悪なんですが、それを「愛郷精神」なんてすり替えているのもまた恐ろしい。

 

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砂穴の底で働き続ける女

この女がなんとも不潔で妖艶で人間味があって嫌な後味を残しています。女は部落の崩壊を防ぐために毎日毎日砂かきをするためだけに生きているかのよう。

女は男の前でオドオドしたり、恥じらいや性欲もあって非常に人間的に描かれているけど、男に基本怒ったりはしない。男はあまりの理不尽さに思い出しては女に何回も当たるが、女にはまるで効き目がないかのよう。

 

だが、村が不良な砂を販売して商売をしていることを男が咎めた時にだけ女は初めて感情的になる。

「いいじゃないですか、他人のことなんてどうだって!」と。

この発言がこの女の人生に対する考え方の全てだったように思う。

女はここから出ることなんて全く考えていない。ただ、砂かきして内職して、ご飯がもらえて眠れて、あわよくばラジオを買ったりできればそれでいいと思っている。 そんなことで満ち足りることができるのだ。誰かと比較した自分の生活の意味や幸福になんてきっと興味がないのだろう。

 

同化する灰色の日常と砂穴の底の暮らし

読み始めは男の運命は理不尽で、悲惨だと思いながら読み進めていくにもかかわらず、だんだんと「これって普段の生活と何が変わらないんだろう...?」と思い始めてくるのがこの小説の面白いところ。必死になって脱出したところで、砂穴の外に自分の望んでいた生活や自由が本当にあるのかと疑問になってくるんですよね。主人公の送っていた教師として働いて食べて眠っての循環を守るだけの生活と、砂穴の底で砂かきをして配給をもらう生活は何が違うのかと。

 

極めつけはラストで主人公は鴉を捉えるために仕掛けた装置を「希望」と名付けるが、それが砂から綺麗な水を漉す溜水装置の役割をしていることに気づき、主人公はその研究に没頭していく。初めは鴉を捕まえてそこに手紙をくくりつけ、助けを呼ぶのが「希望」だったのに、急に「綺麗な水を確保する装置」が「希望」になっていく、つまりこの村で生きることを前提とした「目的」ができる。そしてこの部落の誰かに溜水装置の話をしたいから、縄ばしごがかけっぱなしになっているのにもかかわらず逃げ出さないというラスト。この心理の機微に対する理解がこの小説が傑作と言われている所以なんじゃないかと思う。

 

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冒頭の一文

「罰がなければ、逃げるたのしみもない」は、最後の方の主人公の心情なんでしょうか。逃げてまでして手に入れたいものはもうないと気がついてしまった主人公。今までは逃げようとすると敵である部落の人々が追ってきましたが、「溜水装置のことを部落の人に話したい」と思うようになってしまうくらい、彼にとって部落の人々はもう敵のように感じられなくなっています。つまりそうした人たちに追われ呼び戻されたとしても、それはもう彼にとって「罰」ではないのです。

これをストックホルム症候群のような心理と捉えるのか、次第にそこでの生活に適合していったと捉えるのか様々ですが、何かに当てはめれば当てはめるほど遠ざかっていくような気がします。とりあえず僕は、人間は合理的な生き物なんかじゃないのかもななんてことを思ったところで終わらせています。

 

砂の女に登場する秀逸な名言・名文

砂の女はひときわ優れた比喩表現や文がたくさんありました。

おまけと振り返りに個人的に気に入った箇所を載せておきます。

 

孤独とは、幻を求めて満たされない、渇きのことなのである。

 

型で抜いた駄菓子の生き方でいいから、とにかく生きていたいんだ

 

大人の愛想笑いの使い道を、やっとおぼえたばかりの三歳の子供がみせる、あの媚態だ。

 

情欲は、結局、破滅への距離を短縮しただけのことだったらしい

 

いつも、別なことを夢見ながら、身を投げ入れる相も変わらぬ反復.......

 

互いに強姦し合うことを、もっともらしく合理化しているだけじゃないか 

 

......第一、性病はメロドラマとは正反対なものだ...メロドラマがこの世に存在しないことの、もっとも絶望的な証拠でさえある...... 

 

ただ、互いにすねあうことでしか、相手を確かめられないような、多少くすんだ間柄だったというだけだ。 

 

要するに日常とは、そんなものなのだ......だから誰もが、無意味を承知で、我が家にコンパスの中心をすえるのである。

 

欠けて困るものなど、何一つありはしない。幻の煉瓦を隙間だらけにつみあげた、幻の塔だ。

もっとも、欠けて困るようなものばかりだったら、現実は、うっかり手もふれられない、あぶなっかしいガラス細工になってしまう....... 

 

二十歳の男は、観念で発情する 

 

勝手な行動にあこがれるあまりに、勝手な行動を憎まずにはいられないのだ 

 

他人を、黒板の上のチョークの跡のように、きれいに拭い去ってしまえると信じ込んでいる世界...... 

 

出来れば、自分の静止が、世界の動きも止めてしまったのだと思い込みたかった。 

 

 

 

 

「やられてもやり返さない」美学の嘘。映画「ドッグヴィル」の感想と考察

ドッグヴィル


Dogville - Trailer

 

主演:ニコール・キッドマン

出演:ポール・ベタニー、クロエ・セヴェニー、ステランスカルスガルド

監督:ラース・フォン・トリアー

 

あらすじ(ネタバレ含む)
ロッキー山脈の麓にある孤立した、ドッグヴィル。村人は23人。そこにひとりの美しい女性、グレース(ニコール・キッドマン)がやってくる。自称作家の青年トム(ポール・ベタニー)は、村人たちに彼女をかくまうことを提案。グレースはトムの計画に従い、無償で肉体労働を始め、徐々に閉鎖的な村人たちの心を開いていく。とりあえず村の一員として認められる彼女だが、やがて警察からの手配書により、強盗に関与している疑いをかけられ、村人たちの態度は急変。村人たちはグレースを奴隷扱いするようになり、リンゴ農園を経営するチャック(ステラン・スカルスガルド)は、彼女をレイプする。そのことを知ったトムは、村からグレースを逃がそうと決意し、トラック運転手のベン(ゼルイコ・イヴァネク)に協力を頼む。しかしベンは裏切り、グレースは村人たちに逃亡防止用の重い首輪をはめられた。連日のように重労働を課せられ、男たちに弄ばれるグレース。ついにはトムまでも彼女との肉体関係を望むが、グレースが断ったため、傷ついたトムはギャングに通報。やってきたギャングのボスはグレースの父(ジェームズ・カーン)だった。グレースは彼との議論の末、自分が家に帰る代わりに、ドッグヴィルを全滅させるよう要望を出す。ギャングの部下たちは村に火を放ち、村人たちを次々に射殺。そしてグレース自身は、トムを射殺するのだった。(MovieWalkerより)

 

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目次

 

感想

さすが鬱映画の巨匠ラース・フォン・トリアーの作品なだけあって、観れば観るほど「人間って...。」と絶望する映画でした。

トリアー監督は以前「基本的に、人生における全てが怖い」と言っていたけど、やっぱり映画を観れば、そんな風に思うほど彼には必要以上に人間の「本質」が見えてしまっているのが痛いほど伝わってくる。

 

抽象化しない人間の姿

 「人間の「本性」を無視した観念的な道徳の無意味さを描く」

こんな言葉がこの映画のWikipediaには書かれている。

この映画を最初に観た時も、ラース・フォン・トリアーという監督は本当に「人間」をよくわかってるなあと感心したと同時に、人間のこんな部分に気づかない方が絶対に生きやすいんだろうなあと、複雑な気持ちに襲われた。

中でもわかりやすく偽善者のトムの行動は、ニンフォマニアックでステラン・スカルスガルド演じた童貞おじさんを彷彿とさせる。ニンフォマニアックのラストでは色情狂の女性と語り明かした「性欲」とは無縁に思われた生涯童貞のおじさんが、その晩その女性を襲いに行ってしまう。そして女性が拒否すると「大勢の男とヤったくせに」と言う。

他の男に性の捌け口にされていくグレースを見て、自分も肉体関係を持ちたくなってしまうという衝動に勝てないトムと、色情狂の女性のこれまでの痛々しい性体験を聞くにつれて性欲を感じてしまう童貞おじさんはどこか似ている。性に傷ついている人にさえも欲情するという人間の生々しく嫌な部分が凄まじく凝縮されている。

 

「トム」というキャラクター

多分観てる人が一番腹立たしくなったのはトムだと思う。薄っぺらくて村人にもグレースにもいい顔をするけど、本当は自分の保身のためにしか行動していないのが透けてしまっている人間。ただ、この「トム」という人間が自分を構成する要素と1ミリも似ていないないなんて言い切れる人間もいないと思う。

そもそも冒頭でトムは作家であり(と言ってもニートと変わらないんだろうけど)物を書く上で一番いいのは「実例があることだ」みたいなことを言っている。だからグレースを引き入れたのもそんな人助けをしたいなんて気持ちからではなく「あわよくば創作のネタになればいいかな」ぐらいの気持ちだと分かる。トムの性格からして困っている人間に冷たくすることは、自分を善良な人間だと信じていてできなかった、というのもありそうだけど。

 

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村人たちの仕打ち

初めは順調に打ち解けていったかのように見えたグレースと村人たち。その関係が変化したのはまず、警察から強盗に関与している疑いをかけられたところから。でも村人たちは、そんな厄介者を匿っているのが怖いというよりは、むしろそんな状況に甘んじてここぞとばかりにグレースに重労働を課しているんですよね。

また、ニコール・キッドマン演じるグレースが名前の通り「美」そのもので悲しいくらい綺麗なんですよね。(Graceは神の恩寵みたいな意味もあるので、村人の欲望を赦す存在としてそんな名前にしたのでしょうか)

ともかく、そんな美しい人間を服従させてもいいと村人たちが錯覚すれば男たちが考えることは一つです。

果樹園のチャックが一番初めにグレースをレイプするんですが、このチャックという人間もとにかく最悪でした。初めはグレースに優しくして「この村はそんなにいい場所じゃないぞ」みたいなことを忠告しておきながら、自分が真っ先にグレースの弱みに付け込んでレイプする。そして自分の妻には「グレースが誘惑してきた」と嘘をつき、グレースが女たちからも嫌われていく要因を作るんですよね。

そしてそんな女たちの嫉妬から、グレースはわずかなお小遣いでやっと7つ集めた宝物の置物を壊されてしまう。もう無害で善良だったはずの村人たちの面影はどこにもない。。

 

閉鎖的な環境での退屈な田舎生活も起因しているのかもしれないけど、最終的には逃亡防止用の重い首輪をつけたり、どんどんエスカレートする嫌がらせを見ていると、とにかく刺激に飢え、欲求不満だったんだろうなあという感想しか出なかったです。特に後半以降は未熟な子供がやるいじめと何も変わらなかった。

 

ラストシーンで語られる「傲慢」とは

ラストシーンでは村人たちのあまりに非人道的な行為のせいで、「村人全員がギャングによって皆殺し」というラストにもかかわらず観客側は言いようもないカタルシスを体験できます。

7つの置物順番に壊した人にはその人の7人の子供を順番に殺したり、グレースは自分がやられたことをできるだけそのまま報復します。そして相思相愛だったはずのトムは自分の手で射殺します。

 

でもグレースは初め報復を嫌がりました。「あの人たちはかわいそうなの」と言って。その言葉に対してギャングのお父さんは「お前ほど傲慢な人間は見たことがない」と言います。ここで「え?」と戸惑った人は多いんじゃないのでしょうか。こんな聖人のようなことを言うグレースのどこが傲慢なのかと。

 

グレースは社会的弱者である村人を見下し、許してしまった。その許容が何よりも「傲慢だ」と言っているわけです。グレースの何もかも受容してしまう姿勢こそが村人の仕打ちを助長させ、村人たちの醜さを露呈させてしまったのだと。

欲望がむき出しになり、一度理性を失ってしまった村人を放置すれば、グレースがいなくなったところで新たな犠牲者が増えるだけです。グレースは未来の誰かのために、そして何より自分自身のためにけじめをつけざるを得ない状態に自分で追い込んでしまったのです。

 

そして映画の中でもこんなナレーションが流れます。

ナレーション「いけない、彼らは間違っている。正義を行うチカラがあるならそれを行使するべきだ。ほかの町のためにも人間性のためにも、そしてなにより一人の人間のために。そうグレース自身のために」

 

やられてもやり返さないことが美徳のように語られる風潮のある日本で、これは考えさせられるなあと思いました。もちろん映画ではやり返すことが正しいなんて言っているわけではなく、グレースはあくまでそうするしかないところまできてしまった、という描かれ方ですが。

 

 

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結局、答えはない

この映画はあくまでこうした人間の醜さを徹底的に暴いたところで終了し、結局答えは出ません。最初にも引用した通り「人間の「本性」を無視した観念的な道徳の無意味さを説く」映画なのであり、「人間ってこんな部分があるんだよ」と提示するのみで「じゃあ、どうしていけば平和に暮らせるんだろう」という答えの部分は観客に考えさせる作りになっています。個人的に僕はここがこの映画の真骨頂なんじゃないかと思います。

敢えて言うなら「ずっと考え続けること」こそが答えなのであり、人間の共存のあり方を考える前にまずは人間の「本性」から目を逸らさずに向き合う必要があるんだという当たり前のことに気づかされるし、その答えや結論を映画の中で安易に提示しないこの映画の構造が素晴らしい。これはきっと、誰かと観るんじゃなくて一人で悶々としながら観るべき映画なんだろうと思います。

 

 

余談ですが、この映画のこの撮影の裏側を収録したドッグヴィルの告白も合わせてオススメです。

スタジオの片隅に設けられた“告白室”でキャストたちが心情を吐露するんですが、ニコール・キッドマン「あんなクレイジーな監督と、もう一日たりとも一緒に居たくない。早くお家に帰りたい!」と言っているあたり、白線だけの簡易なセットで演じる不安以上にラース・フォン・トリアーの容赦のなさが想像できます。(ダンサー・イン・ザ・ダークの撮影でもビョークが逃げ出している)