大学生の退屈しのぎ

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映画「さよなら、僕のモンスター」から考える、あの頃一番恐ろしかったもの

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さよなら、僕のモンスター

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監督:ステファン・ダン

出演:コナー・ジェサップ、アーロン・エイブラムス

 

簡単なあらすじ

メイクアップーティストを目指す高校生のオスカーは、怒りっぽいが愛情深い父と暮らしながら、女優志望の友人ジェマとともに作品作りに没頭する日々を送っている。ジェマとはなんでも話せるけれど、恋人ではない、微妙な関係。 ある日、バイト先にワイルダーという青年が入ってくる。つかみどころがなく、どこかミステリアスで自由気ままに季節を謳歌するワイルダーを目にするたび、オスカーの中に生まれる鈍い痛み。それは彼が誰にも言えず、そして認めないようにしてきたある"気持ち"だった―。(Filmarks)

 

 

グザヴィエ・ドランデヴィッド・クローネンバーグに匹敵するなんて書いてあったのでドラン作品が大好きだった僕は早速観ました。

結論から言って、この映画は素晴らしいです。賛否あるみたいですが、僕はそう思いました。

観たのが19歳の時だったのでそんなに遠くもない高校時代のことを思い出していたんですが、あの頃抱えていた漠然とした不安や恐怖の正体ってなんだったんだろう??僕はどうして自分自身でいることを諦めていたんだろう??と突き刺さるような思いでいっぱいでした。学生時代に暗いトンネルにいたような人になら、きっとこの映画は届くと思います。

 

 

 

あらすじ① 幼少期に植えつけられるトラウマ

 

幼少期のオスカーは内気な少年だった。父のピーターはオスカーには優しかったが、母親には喧嘩の延長で暴力を振るうこともあった。

オスカーは誕生日にハムスターのバフィーをもらい、以来自分の悩みを打ち明けるようになる。(この映画ではハムスターのバフィーは話す)

 

母は父とうまくいかずある日突然出て行く。引き止めるオスカーに「捨てるわけじゃないのよ。隔週で会えるから」と言った。オスカーは以来父と二人暮らしになる。

 

ある日オスカーは学校で女子二人に「爪に何かついてるよ」と言われ、手の甲から爪を確認すると笑われる。「手の甲から確認するのはゲイの証。ゲイじゃない人は指を折り曲げて確認するのだ」と女子たちは言う。

 

オスカーはその日、学校でいじめられている少年を見かけた。助けようと思って後を尾けるが、結局怖くて物陰に隠れて見ていた。そしてその少年が集団でリンチされ、鉄の棒のようなものがお尻に刺さって倒れてる姿を見てしまう。

 

家に帰るとそのニュースがちょうど報道されていた。少年は死には至らなかったものの、下半身麻痺になっているようだった。

オスカーが父に「なぜあんなことを彼はされたの?」と聞くと父は「それは彼がゲイだったからだ」と答える。そして「お前も髪を切らないと危ないぞ」と。

 

 

あらすじ② 本当の自分を押し殺して生きる高校生活

 

オスカーは高校生になり、メイクアップアーティストになるために夢中だった。友達以上恋人未満の女の子、ジェマに特殊メイクをして、彼女をモデルにして写真を撮り続ける毎日を送っていた。

 

オスカーは特殊技術の道具を調達する目的でホームセンターでバイトを始めた。そこでオスカーはワイルダーという自由奔放な青年に出会う。制服シャツを忘れた彼にオスカーの制服を貸してあげたことで二人は知り合い、オスカーはそんなワイルダーに一目惚れしてしまう。

 

制服を返してもらったオスカーはそのシャツに顔を埋め、ワイルダーのことを想う。

そしてそのままトイレへ向かいワイルダーのことを考えてしようとするも、頭には幼い頃見たリンチされた少年が浮かぶ。ふと自分のお腹を見ると、そこにはあの鉄の棒が刺さっていた。(という幻覚を見る)

 

バイト帰りにワイルダーはオスカーを車で家に送ってくれていた。その時にオスカーが自分の両親が離婚したことを言うと、ワイルダーは「自分の両親もそうだからわかるよ」と言ってくれる。

 

ワイルダーはオスカーのツリーハウスに興味を持ち出し、見せてくれと言う。

ワイルダーはツリーハウスでバフィーを見ると、オスカーがバフィーをメスだと言っているのを訂正し「こいつはオスだ。タマが付いている」と言う。

その会話の後、低い声で話そうか高い声で話そうか迷っているバフィーは「ジェンダーがこんがらがったみたい」とオスカーに言った。(バフィーの言葉は男性に惹かれ戸惑っているオスカーの言葉でもある)

 

父はジェマにこっそり会った時に「オスカーと付き合っているか」と聞く。ジェマは「彼が言ったの?」と言いごまかしているが父は「つまり息子は...(ゲイなのか)」と続けて聞こうとしていた。ジェマは何かを悟ってはぐらかし答えない。

 

 

あらすじ③ 挫折と孤独を味わうオスカー

オスカーはバイトにも身が入っておらず、人員削減のためにクビになってしまう。

一緒にクビになったワイルダーがバイト帰りにベルリンに数ヶ月行くことをオスカーに告げる。そしてそのための仮装パーティーに良かったら来ないかとオスカーを誘う。

 

家に帰ると願書を送っていたメーキャップ・スクールから不合格通知が来ていた。オスカーはひどく落胆してしまう。

 

オスカーが母の服を着て仮装パーティーに行こうとしていると、父がやってきて「何をしているんだ」と言われる。「仮装パーティーに行く」と言うと、「オカマの集まりに行くんじゃない」と言われる。オスカーはそんな父をオスカーはクローゼットの中に突き飛ばした。

 

ワイルダーの仮装パーティーに到着したオスカー。自分をメイクしてくれた女の子に「ベルリン行きの空港券はいくら?」と聞くと「ワイルダーが行くって言ったの?彼はモントリオールで両親と暮らすのよ」と言われる。(両親が離婚していたと言っていたのも、ベルリンに行くのも嘘だと判明)

 

オスカーはハイになりワイルダーのことしか見えていないが、ワイルダーは他の女の子と踊っている。そしてキスしているところまで見て更に落ち込んでしまう。

そのショックもあり声をかけられたアンドリューという男と踊っていたが、一人でトイレに向かってしまう。しかしアンドリューは追ってきて背後からオスカーを犯す。その時にまたもや思い出すのは公園でリンチされていたあの少年だった。

オスカーはトイレで吐いてしまう。その吐瀉物は大量の釘に見え、自分の腹のなかでも何かがうごめいているように感じる。そしてそのまま気絶してしまった。

 

倒れて吐いているオスカーを起こすワイルダー。警察が来たので逃げようと言う。

ツリーハウスに移動し、同じベッドに横になるとワイルダーは「いつから男が好きだった?」とオスカーに聞く。「わからない」と答えると、「もし友人の俺がキスして腹のなかで何か感じたらわかるよ」と言い、ワイルダーはオスカーにキスをする。

「何か感じた?」とワイルダーが聞くと「わからない」とオスカーは答える。「俺は何か感じた」と笑いながら答えるワイルダー

そして二人は手を繋いでそのまま眠った。

 

 

あらすじ④

朝オスカーが起きるとワイルダーはいなくなっていた。残っていたのは「行くよ。ニューヨークで頑張れ」という手紙だけだった。

 

母親の家に窓ガラスを割って押し入るオスカー。「俺は悪いやつなの?」「なんで独りぼっちなんだ?」とワイルダーが行ってしまった寂しさもあり、感情が抑えきれず母親にぶつけた。オスカーは母親が自分を捨てて新しい家族と人生を手に入れたことを責めた。

母は「それはフェアじゃないわ」と言ってからこう続ける。「あなたはそういう子よ。この先もきっと楽じゃない。クソまみれの人生なら強くなるしかない」

 

オスカーと母が家に戻ると家の中が荒れていた。そしてハムスターのバフィーが家のどこにもいないのに気がつく。

オスカーは外に出てバフィーが死んでいるのを発見する。オスカーが出てった夜、父はイライラしてハムスターを殺してしまったのだ。母は父を「これが父親のすることなのか」と攻め立てるが、オスカーは死んでいるバフィーを見て呆然とする。父は母に暴言を吐いて喚き散らしていた。

 

バフィーを飼っていたケースの中から子どもの頃、リンチされていた少年を助けるために持っていた棒を発見する。そして自分のお腹を見ると深く鉄の棒が刺さっていた。オスカーはそれを取り出し父親に殴りかかろうとする。

 

しかしオスカーは父親のことは殴らず横の椅子を壊す。そして家の中に入った父親を鉄の棒をドアにはめて閉じ込める。

 

オスカーは母親の新しい家族に看病される。ニューヨークの学校に落ちたことを母親に言うとフォーゴ島の短大にアーティストの居住エリアがあることを教えてもらう。

 

オスカーはたった一人でフォーゴ島にいた。そしてそこで一緒に連れてきたバフィーを船に乗せ海に浮かべて別れを告げる。「君は幸せそう」だとバフィーは言い、こう続ける。「言っておくけど、最初のハムスターじゃない。だって10年だよ。君の両親が4回も替えた」

 

目を閉じて眠る時、父親の幻覚を見る。「ねえ、夢が見たい」と幼いオスカーは言った。その中で父親は「ねだるような歳じゃないだろ。自分で夢を作れ。なんでも手に入れられる。愛してる。お前は俺の誇りだ」と言う。

 

たった一人でその言葉を胸に決意を新たにしオスカーは目を閉じた。

 

 

感想① もう一人の自分「バフィー」を通して自分と向き合う主人公

 

この映画を観てまず、ハムスターのバフィーが喋ることにびっくりした人は多いと思います。

もちろん、バフィーの言葉はオスカーの生み出した言葉です。ポイントはバフィーがオスだったことが判明した後に言ったジェンダーがこんがらがったみたい」という言葉。あれは男性を好きになり、自分の恋愛対象が男性であることに気づき始めた自分に対して本当に「普通の男」なのか...?と疑い始めているオスカーを投影したものです。

 

バフィーと対話することを通して自分と向き合い始め、自分の変化をからかいながらもずっと見ていたバフィー。ラストシーンでのそんなバフィーとの別れはオスカーが自分自身に対して迷うことからの決別の意思なんだなあと思うとかなりグッとくるものがありました。

 

原題がCloset Monster(in the closetでゲイであることを隠しているという意味だが、この場合はその意味だけじゃなく自分を押し殺しているという意味もありそう)とあるように、結局一番恐ろしいことは自分で自分を認められないことです。

オスカーは恋愛も成就せず、夢にも敗れるけど最後にはトラウマを克服し、ゲイであることを認めてくれなかった父親を封印し、(だからあえて殴るのではなく、家に閉じ込めたんだと思う)自分で自分を認めることができました。そして新たな方法で自分の夢に挑戦して行くことを選んだから、「さよなら、僕のモンスター」という邦題がつけられたんだと思います。

 

感想② 父親の性格の複雑さ

よく映画である「こいつは悪い奴」「こいつはいい奴」みたいな人間が簡略化されてる描き方がこの映画になかったのも良かったです。この映画は出てくる登場人物の描かれてない部分の背景まで想像してしまうような、いわゆる血の通った人間を丁寧に描いた映画でした。

 

そういった安易な人物描写を全然していないのが父親の存在に特に出ています。父親は酒癖が悪く癇癪持ちだけど、幼かったオスカーにとても優しく接していたし、バフィーが死んでも、オスカーに内緒でこっそり取り替えるようなそんな一面もあったわけなんですよね。だけどそのバフィーをイライラすれば殺してしまったり。

 

愛情を持っているのか持っていないのかも不明だけどここら辺の人間特有の曖昧さがこの映画に深さを出していると思うし、ドランに似てると言われているのはまさにここなんじゃないかと思う。演出の雰囲気ももちろん近かったですが。。

 

 

感想③ ワイルダーの嘘

 

ワイルダーは大きく三つの嘘をこの映画でついています。

  • 両親と離婚していると言ったこと
  • ベルリンに行くと言ったこと
  • オスカーにキスした時に「何か感じた」と言ったこと。

 

オスカーに合わせて両親が離婚していると言ったり、その嘘を隠すためにさらに上塗りするかのようにベルリンに行くと言ったり...。(本当は両親とモントリオールモントリオールで暮らす)

 

ワイルダーが嘘をついたのは映画的に奥行きや味を出すためだと思ってました。日常生活でも時々、自分に大したメリットもないような嘘をついてしまったりすることがあるので、現実に近づけるためにそんなことをしたのかなーと。。

 

ただ三つめのオスカーにキスをした時に「俺は何か感じた」と言ったのは優しさでついた嘘だと思います。

 

多分、ワイルダーはオスカーの好意に気づいてます。それもかなり早い段階から。そしてその気持ちに先回りして嘘をつくようなところがあったんじゃないでしょうか。オスカーのことは友人として大切に思っていて、その好意に自分なりにキスという形で応えたんだと思います。

 

オスカーもオスカーでワイルダーが自分に気を遣ってることも気づいています。だからワイルダーが好きなのに、確信に迫ることを聞かれても「わからない」と言ってばかりで答えられないのです。

 

 

感想④ トラウマを象徴する鉄の棒や釘

 

オスカーは男性に惹かれることを自覚するたびに鉄の棒の幻覚を見ました。それはお腹の中でうごめいていたり刺さっていたり、かなりグロテスクですが、それくらい痛みを伴うトラウマとして幼少期の頃見た少年のことは残っていました。

 

 

だからこの映画の最後で自分のお腹に血まみれで刺さっている鉄の棒を抜いて父親に向かって行くことは「トラウマからの解放」を意味します。しかし、オスカーが父親を殴らなかったのは鉄の棒(自分のトラウマの象徴)で自分が誰かを傷つけるような真似はしたくなかったということなんだと思いました。そしてオスカーはそれで父親を閉じ込め、ゲイであることを否定する父親に打ち勝ったのです。それもかつては自分に刺さっていた鉄の棒を使って。

 

自分を閉じ込める場所であるクローゼットに父親を突き飛ばしたり、自分のトラウマだった鉄の棒で父親を家に閉じ込めたりなど、この映画ではそんな自分を苦しめていたものを使って反逆して行くという場面がたくさんあったのが良かったです。

 

結局好きだったワイルダーもいなくなり、夢にも敗れたけど自分自身のトラウマには打ち勝ち、新たな人生を開拓するというラストはだからこそとても感動的でした。本当に、めちゃくちゃ泣けた。。

 

まとめ

 

この映画はちょっと難解だったので実はもう4回ほど観てますが、観るたびに発見があって面白いです。賛否あるみたいですが、僕は映画だからって現実と切り離せない、自分の人生にも通ずるような希望が見れたのが物凄く良かったです。

 

「さよなら、僕のモンスター」が好きだった方にはこちらも合わせてオススメです。こんな感じの少年少女の感情に寄り添った映画が多めに集めたので良かったら!

 

www.neatnobibouroku.info

 

  

 

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