大学生の退屈しのぎ

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映画「ある少年の告白」を観た。誰もが経験する理解への渇望

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ある少年の告白

 

youtu.be

 

監督:ジョエル・エドガートン

出演:ルーカス・ヘッジズニコール・キッドマンラッセル・クロウグザヴィエ・ドラン、トロイ・シヴァン

 

アメリカの田舎町。大学生のジャレッドはある秘密を胸に秘めていた。大学生活のなかで起こったある出来事によって、自分は男性が好きであると気づいたジャレッドは、両親にその胸の内を告げる。息子の幸せを願っていた牧師の父と母であったが、彼らは息子が同性愛者であると知ったとき、動揺し、ありのままの息子を受け入れることができなかった。そこで父が勧めた<口外禁止>の危険な矯正セラピーへの参加が、ジャレッドを苦しめることとなる…。(シネマカリテ)

 

本作品は原作者のガラルド・コンリーの実体験に基づく。本作で描かれた性的指向ジェンダーアイデンティティの変更を、科学的根拠のない理論に基づいて実行させようとする「矯正治療(コンバーション・セラピー)」は、米国で現在でも、鬱や自殺などの重大な問題を生んでいる。(シネマカリテ)

 

レディ・バード」「マンチェスター・バイ・ザ・シールーカス・ヘッジズレディ・バードでもゲイに苦しむ青年でした)にラッセル・クロウニコール・キッドマンなどの言わずと知れた大物キャストが両親役を固めています。そしてレッチリのフリーと僕の大好きな監督でもあり俳優でもあるグザヴィエ・ドラン、あとはSSWのトロイ・シヴァンが出てるし、ジョエル・エドガートン監督も悪役で出てました。

 

サントラも最高です。シガー・ロスのヨンシーとトロイ・シヴァンがコラボした「Revelation」という楽曲が美しすぎる。シガー・ロス好きな人には聴いて欲しい。

 

 

Revelation

Revelation

  • トロイ・シヴァン & ヨンシー
  • サウンドトラック
  • ¥200
  • provided courtesy of iTunes

 

 

映画館で早速体験してきましたが、中盤まではいたたまれないほど重かったです。無抵抗な少年少女の人格を性的嗜好だけで極悪人のように扱うシーンがずっと続いていくので。。

同性を愛することを大罪のように語り、聖書の言葉を並べ説教してる大人を見て、身近な人間のことを理解しようとしない人間が、自分の心の中の神を愛するなんてことができるのかと、ぼんやり思いました。彼らは全くの傲慢であり、宗教信仰のない僕みたいな日本人から見たら、「神の意思だ」と言われて「お前は間違ってる」と人格を否定されてもなんだかとんでもなく的外れなことを言われているようにしか思えなかったですね。

ただ、それでもこの映画は希望を描いた映画です。終盤まで見ればそれがわかります。「人と人は分かり合えるかもしれない」ということを大げさじゃなく信じられるような映画でした。

 

 

性的嗜好」を矯正する施設

 

ジャレッドは「自分は変われるかも」という期待と決意を胸に抱きながら、母と同性愛を矯正する施設に向かいます。そこでは携帯電話も没収、飲酒や喫煙はもちろん、映画や読書、日記、さらには参加者同士の親密な接触まで禁止という厳しい環境でした。母のナンシーは「見学させてもらえますか?」と受付の人に聞くも「本人のみです。5時に迎えにきてください」という事務的に対応されるだけです。

 

12日間のプログラムに参加予定のジャレッド。施設へは母と近くのホテルに泊まり通うことになっていました。

 

ヴィクター・サイクスという施設の男は参加者を集めてこう言います。「生まれつきの同性愛者はいない。生まれつきフットボール選手がいないように。それは君たちの選択の結果なのだ」と。

 

ジャレッドを含む参加者は男らしく振る舞うために、腰に手を当ててポーズをとらされ、サイクスに「男らしい順に並べろ」と命令された参加者の女の子に並ばさせられます。

他にも問題のある人が家計にいるかどうか家系図を書かされたり(問題のある人物に「烙印」を押して「罪」の出所を探す)、バッティング練習をさせられ、その打ち方が「男らしい」かを確認されます。口癖は「できるまで“フリ”をしろ!」です。

 

そして一番参加者にとって辛いのが「心の清算というプログラムでした。そこでは自分の「罪」をみんなの前で告白するのです。もちろん罪とは自分の同性との性体験などについてです。

 

こうした治療の内容は決して口外しないようにと言われます。

 

ジャレッドが施設に入ることになった経緯

 

ジャレッドは高校の頃はクロエという彼女もいて、バスケをして充実した高校生活を送っていました。

しかし彼女に迫られても性的なことはできないままでした。

 

大学に入寮するとヘンリーという友人と親しくなります。二人は一緒にジョギングをするような関係になりました。

ヘンリーはジャレッドの部屋でゲームをして、そのまま泊まります。

しかし彼はその夜ジャレッドを無理やり襲ってしまうのでした。ヘンリーは教会にいた男の子にも同じことをしたと泣きながら告白します。

 

ショックを受けるジャレッドに追い打ちをかけるように、ヘンリーはカウンセラーを名乗ってジャレッドの実家に電話をし、ジャレッドが同性愛者であることをほのめかすような電話をします。

牧師で厳格なキリスト教信仰を持つ父マーシャルは息子が同性愛者であることを受け入れられず、息子に厳しく詰問します。ジャレッドは「それはカウンセラーではなく、自分を襲った生徒だ」と伝えますが、実際に自分が男性に惹かれることに気づき始めていたジャレッドは両親に同性愛者であることを打ち明けます。

 

受け止めきれないマーシャルは他の牧師たちを呼び、息子に同性愛者の治療施設に入居させることを相談します。「自分は間違ってる」と思い込んだジャレッドは「変わりたい」と言い、施設に入所することに同意します。

 

 

 

 

施設に疑問を抱き始めるジャレッド

 

キャメロンという大柄な青年は、施設の中で疑問を感じながらも器用に立ち振る舞うことができず、サイクスたちに叱責されてばかりでした。彼の「心の清算」の時にも言葉遣いを注意されます。

 

彼はその反抗的な態度のせいである日、罰を受けます。祭壇の前に置かれた棺桶の前で跪かされ、「悪魔を追い払う」という理由で何度も聖書で叩かれるのです。それも家族の前で。サイクスは彼の幼い妹にも聖書を持たせキャメロンを叩かせました。

 

衝撃を受けるジャレッド。次の日やってくるキャメロンが、サイクスに「気分はどうだ」と聞かれ無理して「とてもいいです」と快活に答える姿を見て、すれ違いざまに思わず肩の上に手を置きます。しかし、参加者同士の肉体的接触は禁止されて入るのでジョン(グザヴィエ・ドラン)に「なんであんなことをした?誰も見てないとでも?」と注意されてしまいます。他にもゲイリー(トロイ・シヴァン)に「治っているフリをするんだ。さもなければ長時間施設にいれられてしまう。今はそれを判断する前段階なんだ。治療が有効と信じているなら話は別だが。」と注意されます。他の参加者も疑問を持ちながらもプログラムに参加していたんですね。

 

「心の清算」がジャレッドの番になり、ジャレッドはゼイヴィアという絵を描いている芸術志向の青年と性的関係を持たなかったものの手を繋いで眠ったことを話します。

 

しかしサイクスは「本当のことを言いなさい」と厳しく詰め寄ります。「僕は嘘をついていない。嘘をつけと言うのですか?それこそ罪なのでは?」と反論するも「男性と関係を持ったことをきちんと告白しなさい」とサイクス。彼はジャレッドがレイプされたことを知っていて、ほのめかしていました。ジャレッドは「あれは僕の責任じゃない。罪があるのは僕じゃなくて向こうだ」と言います。すると「なぜ怒っている?その怒りは父親に対する怒りだ。それを話しなさい」とサイクス。ジャレッドは怒りと呆れで部屋を飛び出してなんとか携帯電話を強奪し、泣きながら母に電話します。「お願いだから迎えにきて」と頼むとナンシーはすぐに車で駆けつけてくれました。

 

職員たちに囲まれてるジャレッドを扉越しに見て様子が異様であることを察したナンシー。職員たちは扉を開けようとしませんでしたが、キャメロンが手助けしてくれ何とか外に。ナンシーはサイクスに「あなたは何の資格があるの?牧師?心理学者? 何でもないわね。恥を知りなさい」と吐き捨てます。そして車の中で「私もね」とつぶやき、今まで父の言う通りに服従してきて息子を守ろうとしなかった自分を後悔していたのでした。

 

休憩のために立ち寄ったレストランでナンシーは父マーシャルに電話します。彼は施設に戻るよう言いますが、ナンシーは「絶対に戻さない」とジャレッドに固く誓います。「あの日、お父さんは二人の男性を家に招いて男だけで話をしていたの。私はおとなしくそれに従うだけだった。それは正しいことなのか疑問を持っていたのに口を閉ざし続けていたの。もう黙っていない。お父さんを説得するわ。わかってくれるはずよ」と。

 

自宅に戻ったジャレッド。後日、キャメロンが自殺したということを警察から知らされます。(自殺の理由は明言されませんが、施設の中でも上手く立ち回れず、かと言って“治った”ふりもできなかったのだと思います)

 

 

 

長い時間をかけて

 

4年後。ジャレッドが自身の施設での体験を告発した記事は新聞に掲載されていました。

両親の自宅に記事を送り、ナンシーに電話して父がその記事を読んだのか確認するジャレッド。「これは大事なことなんだ」とジャレッドは言い、書籍化の話もきていたので両親の自宅を訪れることにします。そしてなんとか父に会い書籍化する承諾を得ることができました。

 

家を出るジャレッドはその直前に再び父に会います。マーシャルは自分が牧師という立場であり、受け入れられず葛藤したこと、自分の後継として会社を継いで欲しかったこと、そして何よりジャレッドを失いたくないということを伝えます。「ぼくは同性愛者で、父さんの息子だ。ぼくを失いたくないなら父さんが変わらなければ」とジャレッドが言うと「努力するよ。必ず」と父は言うのでした。

 

 

エンディングで明かされるもう一つの衝撃

 

最後のクレジットでモデルとなった人物たちのその後が語られるんですが、サイクスが現在夫と暮らしているということに衝撃を受けた方は多いんじゃないでしょうか。

あの施設で異様なまでに青年たちを痛めつけていたサイクスが自身も同性愛者だったのです。ということは自分をも「矯正」するためにもあそこまでのことをしていたということなんでしょうか。彼も彼で苦しんでいて、ジャレッドが記事化したことによって救われた人間の一人だったということです。それでも自殺した人もいるわけですから到底許されることではないと思いますが...。

 

ジャレッドも現在夫と暮らしているようで、凄惨な体験をしたにも関わらず、自分を否定しない生き方を見つけられたというのは大きな救いだと感じました。

 

 

家族のすれ違い

 今回、ジャレッドの両親はジャレッドの性的嗜好を否定するも、ジャレッドに対してちゃんと愛情を持っていたことも事実なんですよね。父のマーシャルは自分の立場を守ろうとしていたのもあったけど、最後には受け入れられないことを表明しながらもジャレッドを失いたくないと言ったのは本音だと思います。

 

 

マーシャルみたいな人間が自分が「受け入れられない」ということをまずは認めることが何よりも大事だと思いました。やっぱり「自分は理解がある」と思い込んで心の中で差別をしていたらそれは結局何も始まらないし、「自分は理解できていない」という事実を受け入れるところからしか本当の理解は始まらないからです。

たまに映画やドラマで登場人物が激変して突然物分かりが良くなったりしますが、それは現実世界ではありえないことなんだと改めて。この映画で最後に見えたのはそういう類のものではなく極めて現実的な希望だったということです。

 

 

 

まとめ

 

重いシーンも多々ありますが、ベテラン俳優陣の貫禄ある演技や美しすぎるサントラも含めて個人的にはすごくよかったです。ジャレッドがゼイヴィアと手を握って眠るシーンも「心が通じ合ってる」ことの美しさみたいなものが凝縮されてた名シーンだったと思います。「これを誰が否定できるんだろうか...。」と観た誰もが思ったんじゃないでしょうか。

 

 

 

あと原題は「Boy Erased」(消された少年)なので邦題の「ある少年の告白」だと若干インパクトに欠けてしまうんじゃ...?とは少し思いました。 原題は明らかに衝撃的なタイトルを敢えてつけているような印象なので。

 

ともあれLGBTという枠組みを超えて、親の理想像から自分ははみ出てしまったと感じ葛藤すること、何より理解されたいという誰もが持つ普遍的な感情を揺さぶる映画だったんじゃないかと思います。今の時代に公開されたということも大きな意味を持っていた気がする。。