大学生の退屈しのぎ

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映画「メランコリック」を観た。憂鬱な日常に起こる非日常

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メランコリック

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深夜に人が殺される銭湯を舞台にしたサスペンスコメディー。第31回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門で監督賞、第21回ウディネ・ファーイースト映画祭でホワイト・マルベリー賞に輝いた。本作で長編デビューを飾った田中征爾、主人公を演じた皆川暢二、本作にも出演した俳優でタクティカル・アーツ・ディレクターとしても活動している磯崎義知が立ち上げたユニット One Goose が製作。(シネマトゥデイ

 

あらすじ

名門大学を卒業後、うだつの上がらぬ生活を送っていた主人公・和彦。ある夜たまたま訪れた銭湯で高校の同級生・百合と出会ったのをきっかけに、その銭湯で働くこととなる。そして和彦は、その銭湯が閉店後の深夜、風呂場を「人を殺す場所」として貸し出していることを知る。そして同僚の松本は殺し屋であることが明らかになり…。(Filmarks)

 

※以下ネタバレあり

1.東大出身のエリートの憂鬱な日常 

大学を出たもののアルバイトをしながら実家に居座りふらふらしてる主人公の和彦。両親は東大を出て期待していた息子が職に就かないでいるのを不安そうに思っているけど、それを言わず優しく見守っている。何度かある親子の食事シーンはそんな気の遣い合い、探り合いで優しくも少し重たい。

そんな中、たまたま訪れた銭湯・松の湯で高校の同級生・百合に再会する。ショートカットでよく笑う快活な女の子で、フレンドリーに声をかけられた和彦は戸惑いながらも気になってしまう。(この時の和彦の話し方とか返事のズレ具合が緊張したコミュ障大学生って感じで素晴らしいのも見どころ)

結局、百合にアドバイスされてその銭湯で働き始め、2人は何度か会うようになる。奔放な百合に惹かれていく和彦。ただ、自分が一回も就職したことがなく、アルバイトのままずっとふらふらしていたことは言えないままでいた。

 

 

2.東大出身エリートの非日常な憂鬱

それから和彦はその銭湯は夜になると殺人の死体処理場として場所を貸していることを知ってしまう。そして和彦が知ってしまったということも、銭湯の管理人とそこで雇われている殺し屋の小寺にバレてしまう。そこで和彦も口封じのために死体処理を手伝わされることになっていく。

和彦は初めは死体の処理をすることに戸惑いを隠せないでいた。でも、特別手当と言われ大金をもらうとその封筒をもらい、家に帰ってからそれを見ると、一晩の死体の処理と掃除だけで大金がもらえたことに思わず顔がほころんでしまう。

それから和彦は松の湯に出勤の度に管理人に夜の仕事はないのかと聞くが、「あの時は一度だけ手伝ってもらったけど、もうやらなくていい」と言われてしまう。

しかし、ある時夜に松の湯の前を通りかかると同期のアルバイトの松本がいる。閉店後の松の湯で松本が「夜の仕事」をしていると知った和彦は怒って中に入って松本に掴みかかる。和彦は自分はもう死体処理はやらなくていいと言われたのに、同期のバイトがその仕事を任されていたことにショックを受けていた。

それからも、夜の処理の後に松本は殺し屋の小寺に呼ばれ一緒に仕事をしていたり、管理人に「昼の銭湯の業務は和彦くんがリーダーで、夜の業務は松本くんがリーダーね」と言われ和彦はプライドを傷つけられる。彼女の百合と一緒にいる時も、そのことを思い出してどこか上の空になってしまう。

 

はじめにこの映画の予告を見たときは人殺しという面倒ごとに巻き込まれ、抜け出せなくなっていく恐怖を描いた映画なのかと思っていたけど、主人公の和彦は「自分に危なくて大きな仕事が任せてもらえない」というところに劣等感を感じている。人殺しというヤバいことに関わってしまうよりもこういうことが憂鬱だったんだなあと思うと、なんだか人間の生臭さみたいなものを感じた。

 

 

3.平凡な日常へのあっけない回帰

ラストはヤクザの田中をあまりにもあっけなく陳腐な展開でやっつけて、泣く泣く別れた百合とも再会し、和彦は松の湯の雇われ店長となり、(成功した高校の同級生を経営者にする)松本たちも交えて一緒に楽しく酒を飲むというラスト。つい最近まで人殺しに関わっていたのが嘘みたいに「人生には、こんな何もかもが完璧な瞬間が時々ある」みたいなナレーションで綺麗に締めくくられた。これは違和感を持った人も多いと思うし、自分も正直ちょっと「え?」ってなった。ただ、結局のところタイトルが「メランコリック」とあるように、人生における日常と非日常、大部分の憂鬱と幸福な瞬間の波を描きたかったのかなと思う。ヤクザと関わって死体処理を手伝わされる恐怖というよりも。

 

和彦は死体処理をする度に何度か「この人はどうして殺されなきゃならなかったんだろう」と呟くシーンがある。松本には「そんなの考えてたら身がもたないっすよ」と言われるが、たくさんの人間の死んでいく様を目の当たりにして、自分自身の生と死について思いを馳せるようになったのかもしれない。

 

 

中盤までのハラハラと、笑えるところも満載だったところとクライマックスがあまりにも使い古された展開だったこと(最後の青春映画のようなナレーション含め)、このすべてのアンバランスさが斬新で楽しめたし面白かった。展開が早くあっという間に終わってしまう映画。